好きか嫌いか、その間はないのさ

INTRODUCTION

ジョニー・サンダースといっても、果たしてどれくらいの人が彼のことを知っているのかわからない。彼が出したソロ・アルバムは殆どがインディーズ・レコード会社からのもので、メジャー・レコード会社は契約しなかったし、彼がライヴをやっていた会場も小さなクラブや1000人程度のホールが中心だった。決してドームや球場でライヴをやるようなビッグ・アーティストではなかった。
だがジョニー・サンダースを好きと語ったり、ジョニーのことを敬愛しているというミュージシャンには、メジャー・アーティストが数多くいる。ガンズ&ローゼズのダフ・マッケイガンはジョニーに捧げた「So Fine」という曲を歌っているし、イギ―・ポップにもジョニーの思い出を歌った「Look Away」という曲がある。その他ジョニー・サンダースを好きだと公言しているアーティストには元ザ・スミスのモリッシーやデュラン・デュランのジョン・テイラー、セックス・ピストルズの故シド・ヴィシャス、ハノイ・ロックスのマイケル・モンローの他、キース・リチャーズやあのボブ・ディランまでもがジョニー・サンダースのことは気にしていたと語っているのだ。日本でも故忌野清志郎や故山口冨士夫からシーナ&ザ・ロケッツ、ギター・ウルフ、中山加奈子(元プリンセス・プリンセス)等多くのミュージシャンが彼のファンを公言している。まさにジョニー・サンダースはミュージシャンズ・ミュージシャンだった。
ジョニーのギターは彼独自のサウンドを出していたがテクニシャンというレベルではなかったし、ヴォーカルもヘロヘロ声で、ヘタウマと言った方が良かったかもしれない。ではなぜにこれほど多くのミュージシャンがジョニー・サンダースのことを愛していたのか?それは彼の残したオリジナル曲にも表明されている、彼のロックン・ローラーとしての生き様やライフ・スタイルが限りなくリアルであったからだろうと思う。

60年代に大人の世代への反抗のティーンエイジ・ミュージックとして登場してきたロックン・ロールは、60年代後期のロック・レヴォル―ションの時代を経て、70年代後半以降には大手レコード会社やプロダクションに青田買いされ、次第にエスタブリッシュメントな音楽産業のビジネスへと収束されていった。70年代の後半にそういう商業主義の体制的ロックに反旗を翻したパンク・ロックが巻き起こったが、それらもやがては新たな商業主義へと取り込まれていった。
ジョニー・サンダースのやっていたロックン・ロールは70年代初期のニューヨーク・ドールズから元祖パンク・ロックと評価され、70年代後期のハートブレイカーズの時代にはセックス・ピストルズやクラッシュらのロンドン・パンクにも影響を与えた筋金入りのパンキッシュ・ビートを放射していた。

しかしドラッグ・ユーザー&ジャンキーとして有名だったジョニー・サンダースはある意味で緩やかな自己破壊への道を歩み続けた刹那のロック・アーティストだった。「BORN TO LOSE~失うために生まれた」、「YOU CAN’T PUT YOUR ARMS ROUND A MEMORY~思い出を抱き続けることはできない」、「HURT ME~傷つけてくれ」、「SOCIETRY MAKES ME SAD~社会が俺を悲しくさせる」等といった歌詞の歌を歌い続け、まるでジェームス・ディーンやエディ・コクランやバディ・ホリーのような生き急ぐ人生を38歳という若さで駆け抜けていった最後のストリート・ロックン・ローラーだった。ジョニー・サンダースの人生に、現代の多くのビジネスマンと化したロッカーたちはある種のロマンチシズムを感じていたのかもしれない。
ギターを手に取りロックン・ロールを演奏することは容易いが、ロックン・ロールというライフ・スタイルを生き続けることは決して容易くはない。ジョニー・サンダースはその意味で「セックス・ドラッグ・ロックンロール」という60年代ロックの合言葉を、最後まで生き抜いて見せた稀代のストリート・ロックンローラーだった。

ダニー・ガルシア監督のこの「LOOKING FOR JOHNNY」には、元ニューヨーク・ドールズの相棒シルヴェイン・シルヴェインやハノイ・ロックスのサミ・ヤッファ、パティ・スミス・グループのレニー・ケイら、多くのジョニーを知る関係者たちがジョニーの魅力について語っている。ジョニー・サンダースという知る人ぞ知るミュージシャンズ・ミュージシャンを、より多くの若い世代の人にも知ってもらうためにも、この映画は格好の入門映画となるだろう。だが、ジョニー・サンダースの本当の魅力に取りつかれたなら、あなたは安全で気楽な人生には戻れなくなるだろう。ジョニー・サンダースのロックン・ロールは、自分の夢の実現のためには、人生を棒に振る覚悟のある奴のためのものだからだ。

鳥井賀句(音楽評論家/プロデューサー)