解説

commentary

マディ・ウォーターズのピアニストとして長きに亘って活躍してきたシカゴ・ブルース・シーンの重鎮、パイントップ・パーキンス。1998年パークタワー・ブルース・フェスティバルで来日、その素晴らしい演奏ぶりに深く感動したことを昨日のことのように憶えている。彼とコロラド州ボールダー競演したことのある菊田俊介はパーキンスの事をこう言っている“男の色気がムンムン漂うミュージシャンだ”と。78年USツアー中のローリング・ストーンズ、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、そしてチャーリー・ワッツの三人は7月8日シカゴ/ソルジャーフィールドでのライヴ後の深夜、同地のクワイアット・ナイト・クラブでのマディ・ウォーターズのギグにジョインしセッションを行った。何とこの日のマディをウィリー・ディクソン、そして本作の主役の一人パイントップらがサポートしていたのだった。このところ僕はパイントップの2004年のアルバム『Ladies Man』(BSMF Records/BSMF-7023)をよく聴いている。彼はルース・ブラウン、オデッタ、スーザン・テデスキほか多くの素晴らしき女性アーティストと競演している。彼の亡くなった翌年リリースされた86年にレコーディングされた『へヴン』(BSMF-2282)も力作だ。映画の二人目の主役であるウィリー“ビッグ・アイズ”スミスがプレイ。アルバムではオーティス・クレイが1曲歌っている。

本作にも登場するウィリーとのグラミー・アルバムが『Joined at the Hip』だ。ご存知の通りベスト・トラディショナル・ブルース・アルバムを受賞し、セレモニーに二人は列席、その感動のシーンがここでしっかりと観れるのだ!そこにチェス・レコード仲間のバディ・ガイがお祝いに駆けつけた。

本作『サイドマン:スターを輝かせた男たち』はマディ・ウォーターズのバック・ミュージシャンだったパイントップ・パーキンス、ウィリー“ビッグ・アイズ”スミス。そしてハウリン・ウルフのギタリストを務めたヒューバート・サムリン、この三人が主役である。ブルース界のサイドマンとして今日の音楽の基盤を築き上げるまでの三人の足跡を描いていた音楽映画である。ヒューバート・サムリンはストーンズと交流があり、特にキースは彼を様々な面でサポートしたことはよく知られる。

ここでは彼らの業績やブルースの魅力を多くのアーティストたちが語る。キース・リチャーズ、エリック・クラプトン、ジョニー・ウィンター、ロビー・クリーガー(ザ・ドアーズ)、ボニー・レイット、ジョー・ペリー(エアロスミス)、エルヴィン・ビショップ、グレッグ・オールマン、デレク・トラックス、スーザン・テデスキ、ケニー・ウェイン・シェパード、シェメキア・コープランド(デビュー当時シカゴで彼女のステージを観た、今では素晴らしいアーティストに成長)ほか。そう、ストーンズのサイドマンの一人として89年からツアーに参加しているバナード・ファーラーもコメンテイターとして出演している。本作はブルース・ファン、ロック・ファンは勿論、すべての音楽愛好家にご覧いただきたい!!

パイントップ・パーキンス、ウィリー“ビッグ・アイズ”スミス、ヒューバート・サムリンも自らのヒストリーを思い浮かべながらブルース史を僕らに語ってくれる。そして自然と彼らの演奏シーンにも見入ってしまう。言葉に出ないくらいの感動である。奇しくも三人は2011年に相次ぎこの世を去っていった…

エルヴィス・プレリーにはスコティ・ムーアとビル・ブラックとD.J.フォンタナがいた。チャック・ベリーにはジョニー・ジョンソン、ローリング・ストーンズにはイアン・スチュワート(本作でもその名を発見できる)。そしてジミ・ヘンドリックスにノエル・レディング、ミッチ・ミッチェルがいた。そう彼らはビッグ・アーティストの音楽をしっかりと支えたサポート・ミュージシャン、“サイドマン”なのだ。

サイドマンはソウル・レーベルのスタジオにもしっかりと根をはり多くの名作を生み出した。タムラ・モータウンのファンク・ブラザーズ。MG’ズやマーキーズはスタックス。マッスル・ショールズのスワンパーズはレーベルを超えてR&Bの名作を生んだ。ストーンズも同地でレコーディングした。昨年スペンサー・ウィギンス、今年カーラ・トーマス、ウィリー・ハイタワーのバックとして来日したチャールズ&リロイのホッジス・ブラザーズはハイ・リズム。キースも世話になったメンフィスのロイヤル・スタジオのお抱えミュージシャンでありサイドマンなのだ。

サイドマンの存在抜きにして大スター達の音楽の本質は語れない。1950年代中期にアメリカで開花したロックンロール、その10年後に世界を制覇したブリテッシュ・ロック、この現代のロックのルーツはブルースだ。20世紀が生んだアメリカの文化、ブルースをアメリカ全土からイギリスへ、そして世界中に浸透させた巨人として忘れられないのがマディ・ウォーターズとハウリン・ウルフ。二人は素晴らしい作品を次々に誕生させながら強烈なステージでファンを魅了した。そのレコーディングやライヴでマディをサポートしていたのがパイントップ・パーキースとウィリー“ビッグ・アイズ”スミス。そしてウルフのギタリストを務めたヒューバート・サムリンだ。本作を観た方は必ずやサイドマンの重要性を知ることになるだろう。

『約束の地、メンフィス~テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー~』『I AM THE BLUES アイ・アム・ザ・ブルース』に続く、CURIOUSCOPEがお届けする素晴らしき音楽作品である。

Notes by Mike Koshitani

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